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『資産の交換・買換えの課税理論』阿部雪子(拓殖大学商学部教授)著(平成28年度拓殖大学研究叢書)

掲載日:2017年03月28日

『資産の交換・買換えの課税理論』 -Non-recognition of Realized Gains or Losses on Certain Dispositions of Property‐

平成9年の独占禁止法等の改正により純粋持株会社の設立が解禁され、企業のグループ化が進展したことを背景として、 平成10年の商法改正により株式交換や株式移転制度が導入された。 このような状況に対応して、平成13年度税制改正において法人税法に組織再編税制が創設され、国際化に対応した企業組織変更への租税法の環境が整備された。 このような背景のもとで制定された我が国の組織再編税制は、アメリカ連邦所得税制の「課税繰延べ(non-recognition)」の法理論が基礎にあることが明らかにされている。 アメリカ合衆国では、1921年の歳入法により、実現した所得について認識されずに課税を繰延べるという課税技術が導入され、以来、課税繰延べの取扱いは、 判例法に基づく確立した課税理論としてアメリカ連邦所得税制の基本構造をなすものとされている。

もともと、我が国では、組織再編税制の創設以前から固定資産の交換や収用等による資産の譲渡損益に対して課税繰延べが認められているが、これらの特例は、租税負担の優遇措置や土地活用の促進といった立法政策的な手段として考えられる傾向が強かったという経緯もあり、課税繰延べの理論的根拠については必ずしも十分には議論されてこなかったように思われる。このような問題意識の下で、アメリカ連邦所得税制において課税繰延べの法理論がどのような考え方から導出されたのかに関し、現行の内国歳入法典に至る展開と形成の過程を辿りながら明らかにし、そのうえで、土地税制の課税繰延べ規定の解釈論上の問題について比較法的観点から検討を試みた。 そのために、まず課税繰延べという考え方を所得概念の議論の中で捉え、所得の実現と課税繰延べの関連性を考察した。

そこでは、課税のタイミングの観点から、課税繰延べを包括的所得概念と消費型所得概念の観点から検討した上で、課税所得からの除外、税額控除、免除等の租税歳出と課税繰延べの法的な異同について明らかにした。次いで、「課税繰延べの基礎理論」として、土地税制の交換や収用等の買換え等の財産譲渡の課税繰延べ規定の沿革や制定法の趣旨、課税繰延べに関連する取得価額の取扱い等の考察を行った。 また、アメリカ連邦所得税制の課税繰延べ規定を、その性質ごとに類型化し、かかる取引の特徴とその規定の趣旨及び理論的根拠をアメリカの裁判例等に基づき検討を行った。

そのうえで、課税繰延べ規定が租税法の基本原則である効率性、公平性、税務執行上の簡素の観点からどのように評価され得るのかについて検証した。 本稿の中心となる「資産の交換・買換えにおける課税繰延べ規定」においては、「同種資産の交換(like kind exchange)」(IRC§1031)、 「自己の意思によらない財産譲渡(involuntary conversion)」(IRC§1033)、「主たる居住用財産の買換え(principal residence)」(IRC旧§1034)のそれぞれの規定の発展と形成の過程をたどりながら制定法の趣旨について論述した上で、課税繰延べ規定の主要な要件である「同種」、「保有目的」、「交換」の三要件を念頭において解釈論上の問題点を分析し、我が国の課税繰延べ規定の適用要件の妥当性を比較法的観点から考察した。 さらに、「課税繰延べの法理論」との整合性に留意しながら、先行取得の課税の特例やグループ法人税制が、他の課税繰延べ規定と比較してどのような特異性があるのかを検証し、それらの規定が立法政策的な手段としての性格を有していることを明らかにした。本書では、アメリカ合衆国において課税繰延べの法理論が判例法として確立されてきた背景を重視し、資産の交換・買換えの課税理論における制度論、解釈論上の問題について何らかの示唆を得ることを目的として紙幅の許す限り、多くの裁判例の分析・検討を行った。 最後に、本研究を今後のわが国の土地税制に生かすために、アメリカ合衆国において課税繰延べ規定が租税負担軽減策として濫用される余地もあり得るという指摘が なされていることに鑑みその防止策を検討し、所得税法58条や租税特別措置法37条等の適用要件について立法論上の観点から考察を試みた。

出版社

㈱中央経済社

発行日

2017年3月23日

著者

阿部 雪子(あべ ゆきこ)
一橋大学大学院法学研究科公法学専攻博士課程修了(法学博士、一橋大学)
現在 拓殖大学商学部教授、専門分野は租税法、国際租税法
学部及び同大学院商学研究科において租税法等担当
公認会計士試験委員(租税法)現在に至る