平成30年度 学校法人拓殖大学総長 卒業式祝辞

平成30年度 学校法人拓殖大学総長 卒業式祝辞

平成31年3月23日
学校法人拓殖大学総長 森本 敏

本学所定の過程履修を終了し、本日の卒業式に臨まれた皆さんに衷心よりお祝いの言葉を申し上げます。また、本日の卒業式にご臨席いただきました多くの保護者の皆様方にも合わせてお祝いを申し上げます。卒業生の皆さんの晴れやかで明日への希望と期待に満ちたお顔を拝見し、一段と感慨深いものがあります。いうまでもなく、皆さんはほぼ、全員が平成生まれでありますが、まもなく平成が終わり、新しい年号の御代が始まります。即ち、本日の卒業式は本学にとって平成最後の卒業式ということになります。

そもそも、今年は1989年に米ソ首脳による冷戦終結宣言が出されて30年の節目になります。我が国においても御在位30年という記念すべき時期を迎えられた天皇陛下がこの春、御退位になり、新しい天皇陛下の御代が始まることになります。皆さんはそういう時代の節目に本学を卒業し、新たな年号を迎える日本社会に迎えられ、次の時代を担う世代の中核を占めることになります。皆さんに日本社会から大きな期待がかかるのも当然のことであると思います。

他方、今日我々が生きている世界は政治、経済、社会とも厳しい状況に変わりなく、冷戦後の混乱はますます広がり、依然として困難な激動期を迎えていると言っても過言ではないと思います。大国は富国強兵に走り、覇権主義が広がり、国力のバランス変化が社会を不安定にしています。経済力や軍事力で世界第一位の米国に第二位の中国が挑戦し、厳しい米中関係が続いています。米国とロシアについても同様の厳しい関係にあり、日本はこの米国・中国・ロシア三か国の間にあって難しい国家運営を迫られています。さらに、日本が位置する北東アジアは日韓関係であれ、米朝関係であれ、米中関係であれ、まだ多くの困難な問題を抱えながら進む時期が続くことが想定されます。

加えて、多くの先進諸国では軍事技術・情報通信技術や、宇宙やサイバーだけでなく、AI・ロボティクス・無人システム・5Gなど各種の分野で技術優位を競っており、その競合関係も国家関係をますます難しいものにしています。我々の生活にも、こうした情報技術革命の波が押し寄せており、この変化はこの数年、特に顕著なものがあります。こうした変化は我々の生き方に大きな影響を与えており、我々はこれに適切に対応することが求められています。

その一方で、冷戦期や冷戦後に作られた国際秩序が今日、自国中心主義やナショナリズムの高揚によってゆっくりと崩壊しつつあります。国連も大国の利己的態度によって地域紛争やテロ・大量破壊兵器の使用などの違法な軍事活動が行われても安保理が有効に機能しない状況が続いてきました。

国内を見ても同様であり、厳しい自由競争の中で生き残るために精一杯の努力が必要という状況が続いています。日本は世界でも珍しい平等社会といわれますが、実際のところは経済格差があらゆる分野で見受けられ、また、少子高齢化や労働力不足が経済成長にとって深刻な障害になっていることから、政府は外国人労働者の受け入れを決断して入管法改正に踏み切りました。これが将来、日本社会にどのような影響を与えるかについては注意深く見ていく必要があると思います。

一方で、皆さんがこれから参入する社会は、新たに若い人材を求めてこれから発展しようとして意欲を燃やしているところが多いと思います。それだけに皆さんへの期待も多く、皆さんはその期待に応え得る強い覚悟が必要です。実社会は競争の場です。甘えは許されず、大きな過ちは新入社員の間であっても基本的に許されないと思ってください。本学で学んだ知識と技量を確信し、あとは皆さんの強い意志と意欲、忍耐と闘志の心が皆さんへの評価を決めていくことになると思います。

その際、社会に参入して生き残るためには結局のところ、バランス感覚と柔軟な思考に裏付けられた説得力・表現力が個人の評価を決めるカギになります。その基礎は本学におけるゼミで十分、学んだはずです。特に、柔軟な思考と対応は若い時代に十分、培ってください。他人の意見や周りの状況に柔軟に対応する態度は大切な資質です。自らの確固とした信念と価値観を持ち、それを主張していくことは重要ですが、それは、まず広く他人の意見に耳を傾け、自らの判断基準を確立した後に行うべき態度です。他人から批判を受けたらまず、それを謙虚に受け止めることです。他人から何も言われなくなったとき、人間の成長は終わりに近づきます。そして何事についても旺盛な知識欲を働かせて真実を見逃さないことです。チコちゃんじゃないけどボウ―として生きる人に明るい将来は約束されていません。

そこで、まず、これから実社会に参入する皆さんにとって当面する近い将来のことと、それから、そのあとの長くて短い、あるいは短くて長い人生について少しく申し上げてみたいと思います。

まず、皆さんはまもなく実社会に入ります。あるいは、すでに会社で研修を受けたり、実務についたりしている人も多いと思います。学校と違って社会は実利を重視します。そのために目的や手段も明確です。目的に合致しないことを平気でする人、無駄なことをする人を営利組織である企業は全く必要としません。つまり、いらないのです。いかなる組織であれ、組織が運営される原則は理想ではなく現実です。皆さんは社会に入ると最初に理解できない事態に直面することがあると思います。しかし、それには何らかの背景理由や経緯があるはずです。まず、上司の指示や先輩の忠告に従ってみるべきです。不合理なことや不条理なことに出会っても最低1年は、実態を冷静に見極めてください。改善や提言をしたいなら、それを確かめてからにすべきです。

それよりも重要なことは、自分が参入した社会で自分の置かれた位置を確かめ、自分に求められている真の役割とは何かを真剣に考え、真摯に受け止めることです。自分が持つ英知と精力の一切を与えられた仕事に打ち込んで生きて下さい。また、その間、現在と将来における自分への投資を行うために今日、世界で起こっている新しい知識・情報技術・思想・文化など広範にわたる分野に関心をもって勉強してください。人の評価とは結局、個人が積み上げた知見と誠意と努力の成果の結集です。皆さんにとって学校教育は終わりましたが、社会教育はこれからです。社会教育には無駄な時間はありません。

もう一つ申し上げておきたい。それは最初に選択した道を変更する場合は慎重にしてくださいという点です。今日、日本では求人倍率が高く、皆さんは、仕事をやめてもすぐに転職できるような認識を持っている人がいるかもしれませんが、それは間違いです。高い求人倍率は新卒の話です。私も長い期間にわたり、ずいぶん卒業生を見てきました。転職して成功している人より転職して後悔している人の方が多いということだけは、この際、率直に申し上げておきたいと思います。ただ、転職するなら生涯をかけてその道を究めるような性格を持つ仕事を探すことをお勧めしますが、いずれにしても周囲の意見をよく聞いて自分が持っているすべてを駆使して決断すべきことであると思います。

さて、そのあとの長い人生についてお話しすることはいささか早すぎる感じがしますが、最低限のことをこの機に、お話しておきたいと思います。

人間が生きるということは容易なことではありません。それが分かるのは、年を経て生きることに伴う人間としての苦しみを悟ったときのことです。今からの人生で幾度となく重大な岐路に遭遇すると思います。自分の仕事の将来や結婚や財産や健康や住居やご両親や親族の問題などに関連して重大な決断を迫られることが人生の過程で2度や3度は訪れると思います。その時に決断と選択を誤らないようにすることが大切です。一度、大きな人生の選択を誤ると、そのハンデイーを取り返すのに、およそ10年はかかります。2回以上、重大な選択を誤った人は、あとの人生を必死に生き続けなければ、明るい将来はないかもしれません。選択を誤らないようにするには、深い英知と優れた教養が必要です。そのためには日頃からひたすら自分を鍛え、何事につけても一心不乱に努力するという態度を忘れないでください。

いずれにしても、人として意味があり、人として満足できる生き方をすることには大変な努力を要します。それでも、人はひとたび生を受けた限り、最後の瞬間まで精一杯に生きなければならないのです。それではどうすれば人として意味があり、満足できる生きかたをしていけるのか。それは全ての人にとって人生をかけたテーマであり、人は価値観も違うし、個人差があり、一概には言い難いのです。要はどのような人生を通り抜けていくかについてのカギは皆さんの年代に出発点があると思います。常に自分が箱根駅伝の走者になったつもりで、十分に先を見通しながらも、全体の中で自分に課せられた責任と役割を正しく認識し、人間らしく全力で生きていくことをお勧めしたい。

そのためには常続不断の鍛錬と努力が必要です。他人の経験を真剣に学び取ることも重要ですし、先人の意見に耳傾けることも大切です。まず自らが健康に留意すること、周りの人に常に気を配り、思いやりをもって接すること、家族を愛し親族を大切にすること、大学生の間に見つけた真の友人を大切にすること、日本の伝統や文化を大切にし、地域社会に貢献すること、見返りを求めず他人に手を差し伸べる心意気をもち、困っている人があればできる範囲で救いの手を差し伸べること、自らの心に対して誠実に生きること、自分が不正を決してしないだけでなく、他人の不正をただす勇気をもつこと、謙虚におごらず、控えめにして実力を蓄えることに努力すること、これらの多くは人間として当然のことですが、結局のところ、人の一生とはこれの積み重ねであります。

即ち、人間らしく生き、自ら人として生きるとは何かを追い求める人生を目標とすべきです。豊かな人生と幸福の実感を享受したいと思っている人に申し上げたいことは、それは追い求めるものではなく、苦しんで人生を駆け抜けた人のみが享受できる結果の所産であるということです。本学卒業生であることに常に誇りをもち、明日からの人生に誠心誠意立ち向かっていただきたい。皆さんのご健闘を心からお祈りし、祝辞とします。