理工学総合研究所による文京アカデミア講座「鳥や昆虫の飛翔メカニズム」を開催

掲載日:2022年10月29日

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2022101日、8日、22日の3回、(公財)文京アカデミーとの共催による「鳥や昆虫の飛翔メカニズム」をオンライン (Zoom) で開催し、13名の方にご参加いただきました。
https://www.b-academy.jp/manabi/060853.html

本講座では、生物の飛翔に関する研究論文をふんだんに紹介しました。

まず第1回では生物飛行の力学という研究分野の位置づけ、空気力学の基本から始め、滑空する生物の論文を紹介しました。具体的には、よく知られるムササビのほかヒヨケザルという哺乳類、胴体から飛膜を張り出してから腕でキャッチして飛行するトビトカゲ、手足の水かきを使って滑空するトビガエル、滑空時に着水しそうになっても尾びれの下葉で水面を推進して何度も飛び上がるトビウオ、体から水をジェット噴射して離陸するトビイカ、体の断面を翼型にして揚力を生み出すトビヘビ、といった動物を紹介しました。

2回では昆虫編を行いました。前半は昆虫飛行の概要について、たとえば昆虫のエンジンである飛翔筋に直接飛翔筋と間接飛翔筋があり後者は何度も独立に進化したことや非同期型とすることで高周波数での羽ばたきを可能としていることを説明しました。また代表的な非定常空気力発生メカニズムとして、通常の飛行機の翼であれば失速するような大きな迎え角でも失速しないために前縁渦という現象を利用しており、これによって「マルハナバチのパラドクス」が解消され昆虫が羽ばたき飛行を実現していること、およびこの前縁渦は昆虫以外に鳥やコウモリ、植物の種においても発見されており非常に広範な生物が利用する現象になっていることを学びました。
後半ではより具体的な実例として、以下のようなトピックを取り上げました: トンボの4枚ある翅が効率的な羽ばたき運動を実現していることや鱗翅目(チョウやガ)の後ろの翅(後翅)が機動性向上に役立っていること、トンボの翼端付近の濃い模様(縁紋)がマスバランスとして翼の振動を抑制していること、地面付近で飛行する昆虫は自らが羽ばたきで作った風に乗ることで楽ができること、昆虫の翅は飛行中に適切に変形することで効率が高まっていること、ハエやカは後翅が変化した平均棍を振動させて姿勢変化を検知している(振動が乱されると墜落する)こと、昆虫の翅は翅脈の内部に血液に相当する液体が循環していて神経とセンサを生かしていること、トンボの翅には実際に1枚あたり数百もの大量の気流センサと変形センサが搭載されていること、最後に昆虫は羽ばたくこと自体に姿勢安定効果が備わっていること。

3回は鳥編としていましたが、まず冒頭では時間の関係でここまでに省略していた植物・コウモリ・翼竜の飛行について論文をとりあげて解説しました。その後は鳥の飛行に関するさまざまなトピックを紹介しました: 離陸では地面を蹴り出していること、着陸までの飛行経路のプランニングにおいてはエネルギ最小化でも飛行時間最小化でもなく失速後の時間を最小化するという挙動を示す場合があること、渡りの際のV字編隊飛行はエネルギ消費を低減していること、またそのために羽ばたき運動までも先行個体と同期させていること、飛行中の鳥が翼を変形させて効率的に飛行していること、とくに突風を受けた際には能動的な変形よりも素早く自動的に翼が持ち上がって姿勢を安定させていること、猛禽の尾羽は姿勢安定のためではなく飛行効率改善のために使われていること。

参加者の皆様には心より御礼申し上げます。全体としては飛翔にまつわるさまざまな生物の多様な形態・機能・行動が概観できたのではないかと思います。楽しんでいただけたら、また生物や飛翔に関して新たな疑問が増えたならば幸いです。