『参議院による多元的民意の反映――政治改革の補正と阻害』高宮秀典(政経学部助教)著

掲載日:2025年02月27日

本書は参議院、特に衆議院との違いが見えづらい「参議院選挙区」が、衆院とは異なる独自の民意反映機能――地方政界・業界団体・労働組合の利益表出――を持つことで、平成の政治改革 (1994年の小選挙区比例代表並立制導入など) がもたらす日本政治の構造変化を「補正」ないし「阻害」している側面を明らかにしました。

前者の「補正」としては、郵政民営化法案に対する参議院自民党の大量造反など、政治改革で可能になった首相の新自由主義的な改革路線を参議院議員が抑止することを指摘しました。自民党では、参議院選挙区で県議会議員が優先的に出馬できる構造 (「県議枠」) が存在しており、この「県議枠」で擁立された県議出身議員が、このような参議院の抑制機能を主に支えています。過疎化が進む今日の日本では、地方の声を代弁する参議院に現代的意義を見出せるかもしれません。

後者の「阻害」としては、参議院が1つの政党では統合しきれないほどの多元的利益を野党陣営に流入させた結果、2012年以降の野党分裂を誘発したことを指摘しました。平成の政治改革は「二大政党が争う政権交代可能なシステム」を企図していましたが、2024年衆院選で自公が過半数を割り込みながらも野党転落を回避できた背景には野党の分裂が影響しており、以上の知見は現在の政局を見る上でも有用だと考えられます。

平成の政治改革から30年。次なる改革対象は参議院だという観測もある中で、本書は改革論議の際に参照できるような実証的知見の提供を試みました。是非ご一読いただけたら幸いです。


目次
第1章 いま参議院を考えることの意味
第2章 理論
第3章 自民党における両院国会議員の政策距離
第4章 参議院自民党による郵政民営化の抑止
第5章 公共事業の獲得における参院議員独自の貢献
第6章 「県議枠」成立前の候補者選定過程
第7章 「県議枠」の誕生
第8章 民主党における両院国会議員の政策距離
第9章 下野後民主党の左傾化と野党の分裂
第10章 日本社会における参議院の意義

出版社

東京大学出版会

発行日

2025年2月

著者

著者:高宮秀典 (たかみや・しゅうすけ)
2017年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、2023年同大学院博士課程修了。博士(法学)。東京大学大学院法学政治学研究科ビジネスロー・比較法政研究センター特任研究員、千葉大学特任研究員、駒澤大学非常勤講師を経て2024年より現職。著作は「2016年参院選――政治的貯金の使い途をどうする?」(共著、『世界』887号、2016年)、「2017年東京大学谷口研究室・朝日新聞共同調査」(共著、『国家学会雑誌』131巻9・10号、2018年)ほか。