『関係をつむぐビジネス/拓殖大学研究叢書(社会科学)57』潜道文子(商学部教授)著

掲載日:2025年03月03日

不確実性が高く、グローバル / ローカルな出来事やクライシスがビジネスと社会相互に大きな影響を与えあう現代、企業はどのような価値観や倫理観をもって経営を行わねばならないのか。自社の利益の最大化を目指すというこれまで主流だった企業の価値観が、環境汚染や長時間労働による従業員の疲弊、広がり続ける経済格差、深刻化する気候変動といった、現代的な課題をもたらしているといえるのではないだろうか。成長第一主義を目指す従来型資本主義の矛盾と限界が表面化したのが、現代社会だと言えよう。

2000 年代に入り、企業は CSR や SDGs などに関わる社会的課題解決にコミットする姿勢を見せている。しかし、このような「社会貢献活動をしておけばよい」、すなわち単に「責任を果たす」という姿勢では、本当に社会のためになっているのか判然とせず、また企業にとっての経済的価値創造にもつながらないことが多い。

そもそも、この社会は企業中心にあるわけではなく、社会には、例えば非営利組織、学校、政府、メディア、人(従業員、株主、地元住民、顧客等 )、人以外(動物、自然、技術等 )など数限りないものが、対等なアクターとして存在している。このことを、企業も忘れてはいけない。

一方で、様々なアクターをつなぐ役割を果たせる可能性を秘めているのも企業である。企業は、その一員として社会を、そして地球を、他の組織や人々と共に守るという価値観によって、他を尊重し、関係をつくり、共に活動することで、Business for Society 型のビジネスを行うことが、今こそ必要なのではなかろうか。そのような、利益創出が第一目的ではないマネジメントが、長期的にみると、企業の価値創出にもつながりうる。

このような考え方に基づき、本書は、日本や世界の様々な興味深い事例を紹介しながら、社会と自社、双方にとって明るい未来につながる、これからの企業のあるべき姿と役割を考える。

目次
はしがき
序章 変わりゆく「企業と社会」の関係
 はじめに
 第1節 企業と社会の関係
 第2節 CSRは利益を増大させるか
 第3節 CSRからCSV、コレクティブ・インパクトへ
 第4節 Business for Society経営の社会観
第1章 人間中心のマネジメント─利益志向から人間志向へ─
 はじめに
 第1節 問題意識
 第2節 ステイクホルダーと組織をつなぐパーパス・マネジメント:利益志向からの脱却
 第3節 パラダイムシフト:人間中心のマネジメント
 第4節 オルタナティブなビジネスの事例:The People's Supermarket
 第5節 人間中心のビジネスがコミュニティの再生に果たす役割
 第6節 結論
第2章 教育とコミュニティベースの成長戦略─パーパス・倫理の意義─
 はじめに
 第1節 問題意識
 第2節 モンドラゴン協同組合企業体とその哲学
 第3節 モンドラゴン大学
 第4節 徳倫理と教育
 第5節 結論
第3章 新たな連関構築と公共への貢献─遠回りな利益創出─
 はじめに
 第1節 問題意識
 第2節 研究の背景:CSRの視点の課題
 第3節 アフターネットワーク理論
 第4節 研究方法
 第5節 サラヤ株式会社の事例
 第6節 サラヤのソーシャル・イノベーション
 第7節 結論
第4章 「人が人を呼ぶ」ソーシャル・イノベーション─つなぐプロジェクトの創出─
 はじめに
 第1節 背景と問題意識
 第2節 地方創生におけるソーシャル・イノベーション
 第3節 「ソーシャル・キャピタル」の定義と形式
 第4節 「コミュニティー・キャピタル」の概念と特徴
 第5節 徳島県神山町の事例
 第6節 神山町のソーシャル・イノベーションにおける「コミュニティー・キャピタル」の役割
 第7節 結論
第5章 「小さい」「地方の」先進的コミュニティとビジネス─弱い紐帯の強さ─
 はじめに
 第1節 研究の目的と方法
 第2節 理論的背景と先行研究
 第3節 一般社団法人まめなの事例
 第4節 なぜ、よそ者がコミュニティのメンバーになることができたのか
 第5節 地方創生の課題
 第6節 結論
第6章 企業と従業員と社会の関係性─働きがいと働きやすさ─
 はじめに
 第1節 問題意識
 第2節 働く人々意識
 第3節 「働きがい」と「働きやすさ」
 第4節 「働きがい」の源泉としてのフロー体験
 第5節 フロー体験と社会的企業
 第6節 労働生産性とフロー体験
 第7節 結論 終章 共創時代のBusiness for Society経営

出版社

株式会社白桃書房

発行日

2025年2月26日

著者

潜道 文子(せんどう あやこ)
拓殖大学商学部教授・副学長
1998年 早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学
1999年 湘南短期大学商経学科専任講師
2003年 湘南短期大学商経学科助教授
2006年 高崎経済大学経済学部助教授
2008年 高崎経済大学経済学部教授
2010年 拓殖大学商学部教授
2023年 慶應義塾大学大学院経営管理研究科訪問教授

学位:博士(商学)(早稲田大学、2010年)
専門:企業と社会論、経営戦略論
主要業績:
 「日本人とCSR:遊戯・フロー体験・ダイバーシティ」白桃書房、2014年
 「経営倫理入門:サステナビリティ経営をめざして」文眞堂、2023年(分担執筆)
 「文化・聚落・共有財:環境變遷下之永續発展」國立薹北大學人文學院、2020年(分担執筆)
 「グローバル企業の経営理論・CSR」白桃書房、2013年(分担執筆)