『アウトサイダー・ポリティクス:ポピュリズム時代の民主主義』高宮秀典(政経学部助教)著
掲載日:2025年05月28日
近年、世界の民主主義諸国では、トランプ前大統領の再登板に象徴されるように、ポピュリズムの台頭が一層顕著になっています。ポピュリズムを題材とした研究書は数多くありますが、本書はコロナ禍やロシア・ウクライナ戦争、さらには「トランプ2.0」後の世界までをも視野に収めた最新のポピュリズム論集です。本書の特長としては、「右派」ポピュリズムだけでなく「左派」も対象に含めていること、欧米だけでなく南米・東南アジア・日本も分析していること、従来の「ポピュリスト」の定義に収まりきらない「アウトサイダー」も考察対象にしていることなど、その射程の広さが挙げられます。編者は日本のポピュリズム研究を牽引してきた水島治郎教授で、本書は前作 『ポピュリズムという挑戦』(岩波書店、2020年) の続編となります。
私が担当したのは第14章 「ポピュリズムへの防波堤としての参議院」です。れいわ新選組やNHKから国民を守る党、参政党など新興のポピュリズム政党にとって、参議院は国政進出の足がかりとなってきましたが、本章では、小泉純一郎 (郵政民営化) や橋下徹 (日本維新の会) など、より有力な「ポピュリスト」に対して、参議院が「防波堤」として機能してきた側面に光を当てました。現状分析だけでなく、古代ギリシア・ローマ期の混合政体論、ピューリタン革命・フランス革命・アメリカ建国期の二院制論を参照しつつ、第二院に宿る「制度の精神」が現代日本においてどのような意義を持つかを歴史的視点から検討しました。
日本政治の参照点であり続けた欧米諸国がポピュリズムの波に覆われている現在、日本の民主主義はどこを目指せばよいのか。日本政治は相対的に安定しているのか、実際にはそうではないのか――こうした問いに対し、「比較」の視座を提示する本書が日本社会にとって意義深い一冊となることを願っています。
はじめに アウトサイダーの時代なのか(水島治郎)
第Ⅰ部 現代政治をどう見るか
第一章 欧州ポピュリスト政党の多様性
――概念設定と比較分析(古賀光生)
第二章 西ヨーロッパにおける自由化・市場化の進展と
反移民急進右翼政党の「主流化」
――世紀転換期の民衆層急進化の政治史に向けて(中山洋平)
第三章 「アウトサイダー」時代のメディアと政治
――脱正統化される「二〇世紀の主流派連合」(水島治郎)
第Ⅱ部 転回するヨーロッパ政治――既成政治の融解
第四章 英国における左右のポピュリズムの明暗
――問われる統治力と応答力(今井貴子)
第五章 右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の「主流化」
――若者と旧東ドイツにおける支持とその背景(野田昌吾)
第六章 アウトサイダーのジレンマ
――イタリアにおける五つ星運動の政治路線(伊藤武)
第七章 フランスから見た
「ヨーロッパの極右・ポピュリスト政党」(土倉莞爾)
第八章 鼎立するベルギーのポピュリズム(柴田拓海)
第九章 福祉の代替か、アートの拠点か、犯罪か
――オランダにおける空き家占拠運動の六〇年(作内由子)
第Ⅲ部 環太平洋世界はいま――交錯する新旧の政治
第一〇章 トランプ派の「メインストリーム化」と民主党の「過激化」?
――二〇二四年アメリカ大統領選挙の分析(西山隆行)
第一一章 なぜラテンアメリカの人びとは
「異端者」を選ぶのか?(上谷直克)
第一二章 フィリピン――食いものにされる「変革」への希望 (日下渉)
第一三章 れいわ新選組を阻む壁
――日本の左派ポピュリズム政党の限界(中北浩爾)
第一四章 ポピュリズムへの防波堤としての参議院
――郵政民営化・日本維新の会・希望の党と第二院(高宮秀典)
おわりに(水島治郎)

出版社
岩波書店
発行日
2025年5月22日
著者

著者:高宮秀典 (たかみや・しゅうすけ)
2017年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、2023年同大学院博士課程修了。博士(法学)。東京大学大学院法学政治学研究科ビジネスロー・比較法政研究センター特任研究員、千葉大学特任研究員、駒澤大学非常勤講師を経て2024年より現職。著作は『参議院による多元的民意の反映』(東京大学出版会) ほか。