国際交流基金日本語専門家としてインドへ

鈴木今日子さん

私は2008年7月より2年間、国際交流基金の日本語専門家としてインドに派遣されました。

それまでは日本国内を中心に、十数年日本語を教えてきましたが、2007年に拓殖大学大学院を卒業したのを機に、自分の新たな活躍の場を求めたのです。

日本語専門家の仕事は、地域によりさまざまですが、私の主なミッションは、インドの中学校・高校の正式な選択科目として導入された日本語の教材を作成することと、中高のインド人日本語教師を支援することでした。

インドを一言で説明することは大変難しいです。民族、階層、宗教、文化、言語...どれをとっても多種多様で、何一つ「インドは......」と一括りにできません。そして、それこそがインドを表していると言えます。

いろいろな学校を訪問しましたが、行く先々で子どもたちの熱い歓迎を受けました

いろいろな学校を訪問しましたが、
行く先々で子どもたちの熱い歓迎を受けました

言語一つとっても、公的に認められている言語だけで22言語。多言語社会と言われますが、職場では英語を話し、休み時間は仲間とヒンディー語でおしゃべり、家に帰れば親の出身地のベンガル語で団らん......というように実際には一人が何言語も使いこなす複言語社会でもあります。そんなインドでは、学校の選択言語科目はヒンディー語も、英語も、日本語も同列の「言語」です。

インドの中流以上の家庭の子弟が通う学校では、一般に授業は英語で行われ、そのほかヒンディー語などのインド諸言語を1つ、さらに英語以外の「外国語」を1つ、計3つの言語を学びます。

この「外国語」に日本語が入るわけですが、学校に「日本語」を採択してくれるよう売り込みに行くのも私の仕事です。

子どもたちは日本に興味津々です

子どもたちは日本に興味津々です

歴史的に欧米志向の強いインドでは、「外国語」と言えば、フランス語、ドイツ語が主流で、日本語は完全にFar East、はるか遠く東の果ての言葉なのです。

「日本語を勉強するとどんなメリットがあるのでしょうか」

この質問を何度となく校長に問いかけられました。

日本企業の進出が著しいインドですが、ビジネスは基本的に英語で行われるインドでは、日本語を学ぶ実用的な理由はあまりありません。なぜ、日本語を学ぶのか。これは日本語教師である私の胸に突き刺さりました。

インドでは約50校で約5,000人の子供たちが日本語を学んでいます(2010年現在)。学校を訪問すると、行く先々で子供たちの質問攻めにあいます。「スモウはどんなスポーツ?」「どうして日本語はひらがなとカタカナと漢字があるの?」子供たちは日本に興味津々です。

この子供たちが、将来も日本語の勉強を続けるかどうかはわかりません。でも、日本に興味を持つこと、理解しようとすること、ひいては自分の国について考えること、広い視野を持つこと...。日本語の勉強を通して、言語の向こうに広がるものがたくさんあるのではないかと思います。

わたしはインドで「言語を学ぶ」とはどういうことか、原点に立ち返って考えることができたように思います。