令和6年度 拓殖大学学長 卒業式告辞

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令和7年3月22日 拓殖大学・学長 鈴木昭一

卒業生並びに別科修了生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。保護者の皆様をはじめ、ご関係の皆様にも、心よりお祝い申し上げます。皆さんが新たな門出を迎えられたことは、誠に喜ばしい限りです。この佳き日にあたり、皆さんへのメッセージを送りたいと思います。
まず、皆さんの大学生活を振り返るにあたり、触れずにはいられないのが「新型コロナウイルス感染症のパンデミック」です。このパンデミックは2020年初頭から世界中を混乱に陥れ、社会や人々の生活に多大な影響を与えました。科学技術が著しく進歩した現代においても、感染症との戦いは容易なものではなく、私たちは数多くの犠牲や困難を強いられました。皆さんの大学生活も例外ではなく、さまざまな制約の中で学び、活動を続ける日々を余儀なくされました。特に、2023年5月に新型コロナウイルス感染症が感染症法上5類へと引き下げられるまで、大学は皆さんとそのご家族の安全を守りながら、教育の機会を維持するという難題に直面しました。これに伴い、多くの授業がオンライン形式に移行し、対面での交流が大きく制限される状況となりました。キャンパスに集い、仲間と直接語らいながら学びを深めるという、本来の大学生活の醍醐味を味わうことができなかったことに、当時は大きな戸惑いを覚えたことと思います。しかし、この困難な環境下において、皆さんは懸命に努力し、学びの歩みを止めることなく前進し続けました。オンラインでの学習環境の中で、自己管理能力や自主的な学修姿勢が培われ、これらは今後の人生において大きな財産となることでしょう。加えて、対面でのコミュニケーションの重要性や、人と人とが直接関わり合うことの価値を再認識する機会にもなったのではないでしょうか。
そうした厳しい状況を乗り越えて、皆さんは各学部の教育課程において定められた学修要件を修め、「学士」の称号を得るに至りました。これは、皆さんが大学生活にわたり真摯に学問に取り組み、努力を積み重ねてきた証です。その努力に対して、心から敬意を表します。しかし、学問とは決して学位を取得した時点で完結するものではありません。知識は常に更新され、過去に得た知見が時の流れとともに陳腐化することもあります。これが学問の本質であり、変化し続ける社会に対応するためには、学び続ける姿勢が重要です。大学で培った知識や思考のプロセスは、皆さんがこれから直面するさまざまな問題に立ち向かう上で、必ず役立つことでしょう。加えて、身につけた課題解決の手法や論理的思考力は、今後の人生において揺るぎない基盤となるはずです。ぜひ、自らの成長を止めることなく、主体的に学び続ける姿勢を大切にしてください。
本日、皆さんは人生における一つの大きな節目を迎えました。これからの長い人生、いろいろなことが待ち受けているでしょう。もちろん幸福な人生が待っていることを心から祈っておりますが、幾多の困難も待ち受けているでしょう。どうか、困難な状況に陥っても挫けず、諦めずにそれを乗り越えるべく努力してください。

人生というのは、選択という意思決定の連続です。皆さんは、大小様々な選択の場面に立つはずです。皆さんが、何かの分岐点に立ち、そこで選択を迫られたときには、当然ですが、できるかぎり最善の判断を心がけてください。とはいえ、判断にあたっては大いに迷うことでしょう。迷って当然です。ですから、その判断にあたっていろいろな人にアドバイスを求めることがあってももちろん構いません。しかし、最後の決断は、自分自身に責任を持つためにも自分で下してください。そして、いったん向かう方向が定まったら、その選択が正しかったのかどうかに気を取られずに、前を向き、置かれた環境で、決して焦らず、努力を惜しまず、着実に進んでいってください。そこでできる限りの努力をしたかどうかによって、皆さんの過去のあの選択が正しかったかどうかが決まります。先ほど最善の判断を心がけてくださいと言いましたが、判断しなければならない時点での判断が最善であるかどうかは、実は判断を下すときには決まっていないのです。後になって振り返ったときに、あのときの判断はどうであったのか。そのとき「最善な判断であった」と自分で言えるように、置かれた環境で努力し続けてください。選択した後の努力が、心掛けが、行いが、あのときの判断の良否を決定します。
皆さんが過ごした大学生活の期間は、社会の混乱や不確実性に満ちた時期でした。しかし、その中で皆さんは、困難に立ち向かい、前向きに努力する強さを身につけました。これは、かけがえのない経験であり、今後どのような困難が訪れようとも、皆さんはその経験を糧に、力強く前進することができると、私は信じています。
今なお世界には紛争や対立が続き、平和が脅かされている地域があります。人類は長い歴史の中で度重なる争いを経験し、文明の発展を遂げてきましたが、戦争や対立が根絶されるには、まだ多くの課題が残されています。そうした時代だからこそ、皆さんには多様な価値観を尊重し、相互理解を深めながら、共に支え合う精神を持って行動してほしいと願っています。皆さんが親しんだ校歌の一節、「人種の色と地の境、我が立つ前に差別なし」には、多様性を受け入れる精神が込められています。この精神を胸に、偏狭な考えにとらわれることなく、広い視野を持ち、人と人とのつながりを大切にしながら、社会の発展と世界の平和に貢献してください。
本日をもって、皆さんは拓殖大学を卒業し、それぞれの道へと歩みを進めますが、拓殖大学はいつでも皆さんの来校を歓迎します。これからの人生において、悩みや迷いが生じた際には特に、どうか母校を思い出し、私たち教職員のもとを尋ねてきてください。皆さんの成長した姿を拝見できる日を、私たちは心待ちにしています。
卒業生・修了生の皆さんのこれからの人生が、実り豊かで幸福に満ちたものであることを心から願って、告辞といたします。

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